永遠のパラドックス
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12月14日、木曜日 どんなに嫌なことがあっても必ず朝はやってきて。それに改めて気付かされるのは大事なものを失ったときだ。 人間味のあるはずもない耳障りな目覚まし時計の電子音に起こされて、カーテンの隙間から差し込む光にもう朝か……などと寝ぼけた思考を覚醒させると、そこに佇む現実を否応なしに意識させられてしまう。 だから胸が痛かった。逃げていたそれを、改めて目の前に突きつけられて━━━━。 それでも時間に従って動かなければいけない日常もそこにある。 現実逃避━━━━甘い言葉だ。 まだベッドから出たくはなかったが、スムース機能付きの目覚ましが何回目かの電子音を響かせ、時間が差し迫っていることを教えてくる。 「学校……か、」 時計のボタンに手をかけて数秒。気持ちを切り替えて、素早く起き出す。 いつもと変わらない世界は、やはり変わらずにそこにあって━━━━。 「佳兄ぃ〜、起きたぁ?遅刻するから早くっ!!」 唐突で、荒く激しいノックに乗って、ドアの外から高い女声が響く。 年齢の一つ違いの妹・藤本美里だ。そのこともあってか、いがみ合うことも多く仲の良い兄妹ではないが、それでも家事全般を任されている身としては同じ家に住む人間の遅刻行為は許せないのだろう。 「ちょっと佳兄ぃ、起きろぉっ!!」 「起きてるってっ!!朝からハスキーボイス響かせてんじゃねぇっ!!」 「ならはやく下降りてきてご飯食べろっ、馬鹿兄ぃっ!!」 盛大にわめき散らすと、それはわざとか大きな足音が響き、ドアのそばから美里の気配は消えた。 「……ったく、朝っぱらから」 どれだけの大声をあげたところでそれを注意する人間は家にはいない。母親は俺の物心が付く以前に亡くなったそうで、居間には顔も覚えていない若い女性の写真が飾れている。それが母親のものであると知ったのは小学校の中学年にさしかかったあたりだったかと記憶している。 それまでは親父の代わりに世話を焼いていた叔母さんを母親のように思い、実母のことを尋ねたことはなかった。叔母が実母でないことは小さな頃から理解していたが、しかしそこに大きな疑問を覚えるほどに、その頃は大人でもなかった。今思い返せばそれだけの愛情も受けていたのだろう。 年齢も上がり、中学に上がる頃には叔母も彼女の家族を持ち、俺たち兄妹に構うことも無くなった。どちらかといえば、俺たちが子供心にも叔母に余計な負担を掛けたくなく思い、遠ざかったといった節もある。父子家庭である関係上、親父は働きに出ている時間が多く、そこそこ仕事のできる人だから会社の中でも責任は重く、当時から家にいることはほとんど無かった。最近は日本各地を飛び回っているらしく、一、二ヶ月に一度の割合でしか顔を会わすこともない。それが信頼による賜物なのかは本人しか知らないが電話一つ掛けてこないのだ。 妹に関しても、中学に上がった頃からほぼ二人暮らし的な状態が続いているが、その頃というのは妹といった存在に構うことに恥ずかしさを感じ始め、体裁を気にしては周囲に格好付けようとしていた。俺から必要以上に構うことはめっきり無くなり、彼女から甘えてくれば、理由をつけては突っぱねた。今思えばその頃から家族としては壊れていたのだろう。最近は既にいがみ合う関係でしかない。 後悔はしていない。いや、しない。当時は自分の年齢的にも親離れ、兄弟離れを当然だと思っていたし、そこで甘えてくる妹をうざったく思っていた。ただ今思えば、それは仕方のないことで家族が二人の状況では互いに助け合うしかなかったのだろう。 片や兄を求め、片や妹を突き放した。その結果が今にある。それに気が付いたのは最近で。 しかし気付いたからといって既に壊れてしまったあとだ。今更に昔話を思い返したところでそれは過去だ。後悔したところで今が変わるわけではないから。だから俺は後悔しない。 「いい加減、自分で起きてきてよね。佳兄ぃの世話なんか、もうウンザリ」 二階にある部屋から降りてきた俺に掛けられたのは挨拶でもなく、そんな言葉だった。 「別に俺が遅刻したとこで、お前はなんも困らねぇだろうが」 「あたしの世間体が悪くなるのよ。佳兄ぃのせいで先生から文句言われるのも全部あたしなんだからねっ!!」 俺はそんな怒声を右から左に聞き流しつつ、食卓に着くと食事にはいる。 「ちょっと、聞いてんの!?」 ああ、確かにちょっとなら聞いてるよ。 「そーゆー意味じゃないっ!!少しは態度を改善しろ、この馬鹿兄ぃっ!!」 うっとおしい。そんな感情も表には出さないように繕う。どうしてコイツはここまでムキになるんだろうか。というか、んなもん無視すりゃあ良いだろうが。どうせ文句言ってくる先生なんて樋口ぐらいだろ? 「あの先生は、基本的にあたしには何にも言ってこないよ。その他の先生のほうがしつこいの」 普段は他の先公は普段俺らのことはなんか言うどころか無視なんだけどな 「だからでしょ。佳兄ぃに直接言えないから。どっちにしたって馬鹿兄ぃが遅刻とかサボらなきゃ、文句の言われる必要もないのよ」 しつこいな。飯ぐらい静かに食わせてほしいところだ。毎朝やっているのに飽きないのだろうか。別に━━━━。 「それにしたってお前がどうこう言うことじゃないだろ。干渉すんな」 言ってから気付く。言葉の選択を間違えたことに。案の定、美里の導火線は綺麗に燃え尽き、その爆弾を破裂させた。 「干渉するな、だってぇ〜!?なら干渉されないような生活してみろっ!!」 「うるさいな、どうだっていいだろ」 「どうだって良くないっ!!一人じゃ生活できないクセにっ!!」 もうここまでくると売り言葉に買い言葉だった。止まるものも止まらない。━━━━この家族は既に壊れていた。 「そんくらい出来る。だからさっさと男の一人も作って家出てけ」 正直、怒っているわけじゃない。そこまでムカついている訳でもない。だからといって、呆れているわけでも、ない。 「まぁ、お前に男なんて出来るわけ無いか」 ただ、偽っている。その口から出る言葉は紛い物。見せる表情は造り物。そこに本当の感情は伴っていない。 「最っ悪!!死んじゃえ、馬鹿兄ぃっ!!」 美里は両手を机に叩きつけて、怒りを隠さずに鞄を乱暴に引き掴むとドアを勢いよく空けて部屋を出ていった。姿はそのまま見えなくなったが、玄関の方から大きな音がしたのでおそらく、そのまま学校へ向かったのだろう。 美里の机への一撃でこぼれるかこぼれないかといった瀬戸際の揺れを見せる椀の中の味噌汁を上から眺めつつ、ふと思考に耽る。 死んじゃえ……か。 別にどうでもいい。怒りは感じないし、実際、俺が一人死んだところでこの世界は何も変わらないだろう。 現実なんてそんなものだ。人一人いなくなったところで新聞の地方欄に小さな記事が載るだけだし、その人の周囲、身近の世界でさえ時と共にその存在を忘れ去ってしまう。その人の優しさも、ぬくもりも。 学校は家から自転車で15分といったところにある。大半の生徒の例に漏れず俺も自転車通学で、家が近いこともあり遅刻寸前の登校が常だ。 朝に一悶着あったものの、いつもと変わらない朝。教室に入るなり翔が話しかけてくる。まぁ、それも含めていつもの朝。 「よぅ佳祐、いつも通り遅刻寸前の登校だな」 「うるさい消えろ、二度とその口開くな。邪魔だ」 「あ、相変わらずキツいな。大したこと言ってないだろ?オレは」 茶髪ピアスの腐れ縁。その位置付けにいる男・坂井翔は愛想笑いなのか呆れているのかよく分からない表情で俺の席まで後ろを付けてくる。まぁおそらく両方なんだろうな。俺が自らの席に着くと、翔は断り無くその机に腰掛ける。 「なぁ、佳祐」 ん?なんだ、まだいたのか。考え事してるんだ。邪魔だから失せろ 「いや、さっきからずっといたし……。ってか気付いたなら気付いたでいきなりそれかよ」 いや、もちろん最初から翔が付いてきていることは気付いていたが。ここでそれを翔に言ってしまうのは面白くない。 「いきなりも何も無い。すごく邪魔だ」 「ひどくね?」 ……お前に優しくしてもキモいだけだ。みんながドン引きするのが目に見えてる。 「まぁ、その通りなんだが……」 翔を横目に見つつ鞄を机の横に引っ掛けて、椅子の背もたれに体重を預ける。いつから使われているのか、何代にも渡って生徒に座られてきた椅子はその年齢を感じさせるかのように支えの鉄パイプの骨を小さく軋ませた。はぁ、たく朝から無駄な労力使ったな。マジでタルい。 「朝なんて誰もそんなもんだろ。お前の場合、どうせ授業中の90%は机の上で寝てるんだから、どんな体調だろうが関係ねぇしな。昼には上、行くだろ?」 上に行く━━━━その意味はすぐに分かった。好きな訳じゃないが癖、もとい習慣は簡単に抜ける物ではない。力なくぶら下がった右腕を持ち上げ、目的の物を確認するためにブレザーのポケットを漁る。 ……あるな。数もまだ残ってるはずだ。俺は軽く頷く。 「ああ、行くよ。つかそれまで寝るんだから、邪魔。てな訳で、どけ」 「……全く、良い根性してんよ、お前は。成績知らねぇぞ?」 「翔ほどじゃねえよ。お前の場合、授業態度どうこうじゃなくて出席日数足りてねぇだろ?」 なはは……と声を上げて笑うコイツは既に留年予備軍だからな。取り敢えず授業は出とけ、と俺が言ったところで大して意には課さないだろうが。 「まぁ何とかなるって。じゃっ、とりあえず昼にな」 翔は言うことだけ言うと、俺の机からひょいと降りると、自分の席へと戻っていった。 ほんと、いい加減なやつだと自分のことを棚上げして、そんな風に思う。しかし翔だからこうやって友達をやっていられるんだということも分かっている。 翔は深く干渉してはこない。俺も深く干渉はしない。干渉する事もされる事も、それは重荷でしかない。感情が先走り、それを抱え込み、最後には崩れ落ちる。互いにそれが人間だということを分かっているから。 どんなにだらけた生活をしていようと体内時計は正確で午前中の授業の終わりにあたる四限の、その終了のチャイムの鳴る前三分ほどのところで俺の意識に覚醒を促した。 毎日の繰り返しに慣れたんだろうと思う。漢字のごとく習慣、だな。 周囲のクラスメートは教卓に立つ英語教師の隙を見ては、ちょくちょく黒板の上に据え付けられた時計に目を向け、どうにも落ち着きが無い。というか既に授業を受ける気がない。大声ではないにしろご近所さんとしゃべっている奴が探さなくても目に付くほどにはいる。それに気が付いているのだろう英語教師も、別段注意するでもなく、やる気の感じさせない声で教科書を朗読する。 まぁこんな物だろう。お世辞にも進学校とは呼べないこの学校には、生徒にしろ教師にしろ大半はこんな奴ばかりだ。大半に含まれない少数派もいるにはいるが、結局は少数派。周りに流されているのが実状だ。このクラスの情景も、まぁ学校の縮図といっても問題あるまい。 さて周囲を観察している内にもチャイムは鳴りそうだが……と、耳に聞こえてくる高周波数の耳鳴りのような音はクラス据え付けのスピーカーに電気が通った音だ。チャイムの鳴る十秒前。ちょうど区切りがついたのか教師も既に教科書を閉じ、生徒もそれに呼応するようにざわめき出す。 ……俺も、屋上行くか。 きっかり十秒後にチャイムは校内に響きわたり、同時にクラス委員の号令と、それを待ち望んでいた生徒が動き出す。そんな彼らに倣うように俺も立ち上がった。 クギィィィ…… 学校が古いだけあって、その時代錯誤な重めの鉄扉を押し開けるとさび付いた蝶番からか乾いた悲鳴のような音が響いた。暗い階段に光の筋ができ、それが扉を開く度に一つ下の踊場まで伸び、そして広がっていく。その光のラインの上を、少し乾いた風が階下へと抜けていった。 翔はまだ来てはいないのか、広がった屋上を写す視界に人影は無かった。屋上は特に締め切られているわけでもなく、しかしだからといって何があるわけではないので俺や翔以外に、普段この場所を訪れる者はほとんどいない。言葉の通り、ベンチの一つもないこんな所を訪れるのは一人になりたい奴か、余程酔狂なやつか。まぁ、だから俺のようなはぐれ者がここに集まるのだろうが。翔の得てして、『コンクリートの無人島』とはよく言ったものだ。胸の位置ほどの低い柵に囲まれた無人島はその敷地に給水搭だけを置いている。 扉を後ろ手に閉め、回り込むように出口の裏、人目に付かぬそこに出口を背にして座るとポケットを漁る。 取り出したのは小さな縦長の箱━━━━タバコだ。ものはセッター。 箱の底を軽く叩き、飛び出してきた一本を口にくわえて引き出すと、今度は胸ポケットからライターを取り出し、火を付ける。 カチッ、と小さな音を立ててタバコの先に火が灯った。幸いなことに風も弱く、多少は炎も揺らいだがそれ以外は特に問題もなかった。 軽く吸って……時間を掛けてゆっくりと吐き出す。先端の灯火が一瞬強く輝き、そして白く灰を作る。吐き出した煙がゆっくりと立ち上って時折、弱く吹く北風にさらわれる。 何を考えるでもない。何も考えないためにここに来ているのだから。どうせ翔のバカがきたら嫌でもうるさくなるだろうしな。 と、噂をすれば何とやら、か?うるさいのが来たみたいだな。 煙草の半分も消費しない内にがちゃり、とおそらく屋上の扉の開く音が聞こえた。この近くにノブ式の外への扉など他には無いし、まぁ間違いはないだろう。 足音は一つ。別に確認しに行く必要もないだろう。この寒空の下で一人で飯を食おうなんて酔狂な奴もいるまい。教師にしたって長い付き合いだ、ここに俺が居ることを知っているだろうが、注意するような無駄はしないだろうな。教師も手放し学園公認のワルをやってるからな、俺らは。周囲に余計な迷惑をかけなければ介入もしてこない。ある意味、暗黙の停戦協定を結んでるようなもんだ。まぁ例外も一人いるが。 「お、やっぱこっちか」 「遅ぇよ、まぁお前が来なきゃそれでも別に何がある訳じゃねぇけど」 壁づたいに屋上出口から回ってきた翔は俺の隣に腰を下ろす。 「樋口にな、ちょい捕まってよ。テキトーに言って逃げてきた。……佳祐、今切らしてんだ。一本くれよ」 「飽きねぇな、樋口の奴も。他の教師みてぇに俺らのことなんかほっときゃ良いものを」 ポケットからライターと箱を取り出し、翔に投げてよこす。唯一の例外である樋口も毎度毎度、いい加減諦めても良さそうなもんだがな。 「サンキュ、……ふぅ〜、この瞬間だよなぁ」 「んだよ、突然」 「いや、これだからタバコはやめらんねぇなって」 「間違いなく早死にするな、お前は」 「佳祐には言われたくねえよ。お前だって同じようなもんだろ?」 「……まぁ、な」 壁に深く寄りかかり、二人して空を見上げたりしてみる。結局のところ、俺らは似たもの同士なんだよな。何かを示し合わせた訳じゃないのに、気が付くと同じような行動をとっていたり。まぁ、互いに単純だ。 見上げた空は、何もない、ただそこに広がる水色。突き抜ける光は暖かくなく、寒くなく。昇りゆくタバコの煙は、白い絵筆のように青色の透き通った画用紙に模様を描く。それを誰に見せるためか、ふいに吹いた北風がどこかへと運んでいった。 「……寒い」 身を切る風に、体全体が冷えるような寒さを唐突に感じた。 「ま、そりゃあ冬だしな。佳祐、寒いの駄目だったか?」 「ああ、しかもまだ冬が終わるまでは2ヶ月はかかるときた」 まぁ、三月入るまでは冬と言える気温に大きな変化はないだろう。 「多少でも暖かくなってくれればな……ここも過ごしやすくなるんだけどな」 「ま、無理だろな」 「だろうな……」 はぁ……、とため息を付く。どうしようもないことだと解っていたから、まぁ流れで出したようなものだ。落胆もしない。 「そう落ち込むな。寒い冬ならではの寒さ吹き飛ばすイベントもちゃんとあるだろ?」 「は?なにが?」 「なにが?、じゃない!!近くは文化祭があるだろが。あぁ、胸躍る文化祭。他校からもかわいい女の子が集まるパラダイスッ!!」 「……あぁ、」 翔が唐突に立ち上がり、力説し始める。こう壊れた翔は当分は止まらない。 文化祭━━━━他の学校がすでに終わったこの時期、この学園はクリスマスパーティーを兼ねて学期の最後に2日間、今年は23、24に大規模な文化祭を行う。なぜに23日から?とも思うが、単に今年は23日が土曜日だからという安直兼分かりやすい学園側の事情から、らしい。 ま、彼女の一人もいるなら2日間パーティーのクリスマスがフリーって状況は嬉しいんじゃないか。俺や翔には縁のない話だが。 「ナンパしてかわいい彼女でも作って、一緒に回る露店。クリスマスに会う約束なんかしちゃったりして家まで送る。んで、クリスマス。寒い中、触れ合う手のひら。近づく距離に互いを意識して、芽生え気付いた想いッ!!」 「……おい、」 「迎える夜、照れて火照る体。あぁ、でも駄目だよ、俺たちはまだ出会って少ししか立ってないじゃないかッ!!」 目がヤバく揺れて、体がうねうねと…… 「おい、壊れて暴走すんな。マジでキモいから」 ずびしっ!! 「あうっ、」 翔の額にチョップを叩き込む。ちなみに一切の手加減はしていない。 「な、なにすんだ、てめぇ」 うるさい、妄想するならここから消えろ。 「〜〜〜〜!!!?」 ずびしっ、ともう一発。さすがに崩れ落ちこそしなかったものの、額を抑えてうずくまった。 「ふぅ、」 いつの間にか、フィルターの所まで火の来ていたタバコを、ポケットから取り出した携帯灰皿に押し込む。灰皿を閉じてポケットに改めてしまうと、横目に翔の様子を伺う。 翔はといえば未だに額に手を当ててうずくまっている。そんな強く叩いていない、はずだが。 「おい、翔?」 「……」 うむ、反応無し。この場合…… 「……もう一発いっとくか」 ガタッ!! 俺が右手を振り上げると翔が飛ぶように俺から距離をとる。 「なんでそうなるっ!!」 やはり起きたか。絶対わざとだと思ったよ。んなに強く叩いてないしな。 「強さの問題じゃねーし。不意打ちはねぇだろ」 不意打ちもなにも、一人で妄想んなかに居たのはお前だ。 「夢見るぐらい良いだろ!?」 「泣きながら縋ってくるな、あと妄想するなら他行ってやれ」 翔を無碍に押し弾く。 「別に良いだろ!?お前は女の子選び放題なんだからっ!!」 人を女たらしみたいに言うな、人聞きが悪い。大体、誰がいるって言うんだよ。思い浮かぶ名前なんてたいしてないぞ? 「ふん、これだから鈍感なやつって言われんだよ。そもそも俺が言うまでクリパのことも忘れてたろ……」 「まぁ、な」 本当に忘れていた訳じゃ無いけれど、取り敢えずこの場はこれで誤魔化しておく。翔も、不満げな顔こそしたが、それ以上の疑問を投げてはこなかった。 「うわ、やっぱり。忘れんなよ、今年最後の学園イベントなんだからさ」 大仰に吠える。この寒い中、こいつだけ夏のようなテンションだ。俺はそんなに乗り気じゃあないがな。そもそもうちのクラスはそのクリパ十日前、あれ?九日前か?まぁどっちでもいい。その今になってまだ何のもようしをするのかさえ決まってないだろ? 「それを今日決めるんだとよ。しかも放課後。居残りで。あさのホームルームで深冬と大佐が騒いでたぜ」 「げ、」 放課後だって?文句の一つも言いたくなる。というか、文句一つも無しに逃げ出すという選択肢が一番だが、しかし文化祭実行委員、あの二人だったのか。逃げ出すにしてもハイリスク、ハイレベルのローリターンだ。大人しく机で寝ていろってことだな。ちなみに『快くクラス会議に参加』の選択肢は露一滴どころか水素分子ほどもない。 「んなこと言ったって、どんなに小さくても結局は水、今じゃないにしろ、どっかじゃ関わることになるんだから諦めろ」 と、これは翔の言。ちなみに水素分子イコール水の極小単位って考えは間違ってるぞ。水はエイチツーオー( H2O)だ。 「知るか、んなこと」 ……お前、中学戻れ。 「戻るのはクラスだ。もう予鈴も鳴るしな……っと、灰皿貸してくれ」 何にも持ってきてないのかお前は。てか、最初から全部、たかるつもりだったな? 「い、いや、んなこと、あ、あるわけないじゃんか」 ……分かりやすい反応どうも。めちゃくちゃどもってるよ、お前。 第一章END: あとがき〜〜 読んでくれたあなた。お久しぶりです。 永遠の〜の方の執筆はなかなか難しく、捗らないのが現状です。 一人の視点で描いているため、他の登場人物の心情を描くことが困難なのです。 どんな顔を彼に見せていても、何を考えているか。そんなのは分かりません。誰だってそうです。 だから人は時に我慢し、時にぶつかり。 思春期ってのはそんな風に成長していく過程の、山場のようなものですね。 それを過ごして来たからこそ、今の自分があるんだなと考えたりもします。 学園が舞台のため、たくさんの登場人物が出てくる予定です。 彼ら一人一人は違う人間で、考えていることも違います。 そこを丁寧に描けたらな・・・と思います。 では、また次章であなたと出会えることを願い・・・ 著;霜月ひろEND: |