その魔法の向こう側に。その5
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傷付くのは辛い。 傷つけるのは簡単だ。 腕を一振りすれば大抵の者は跪いた。 言葉を紡げば抵抗する者はなかった。 なんと傲慢なことだ。何でも手に入ると考えていた頃だ。 その力は、その世界においては異質で。故にその力が引き起こす不思議に人は恐怖し、人は好奇の眼差しを向け、人はそれを奉る。 時の王はそれを利用しようとした。その異質な力の影響力と、なによりその力の強大さ、そしてその破壊力を。 沢山の人を殺した。それは戦争。 仕方のないことだと自分に言い聞かせて魔法を使った。 剣より強い破壊力、盾より硬い防御力、弓より早い速度、大砲より広範囲に広がる破壊の渦。 それは正しいことと言い聞かせて振るわれた。 人々はその異質な力を持つ少女を救世主と奉った。 また相手方の人々はその一人の少女を悪魔の化身であるといった。 人はなんと傲慢なことか。戦争が終わったとき、必要の無くなった強大な力はそれだけで脅威といえた。人を超えた異質なそれ。人々は少女を魔女と呼んだ。まだ幼き彼女を、救世主であったそれを、人は『人』として扱うことは無かった。 後の魔女裁判の発端であったのか、それを知るものは無い。ある者は恐怖から、ある者は好奇心から、中には快楽のための人間もいたかもしれない。 少女は城より追放され、村に定住もできず、しかし人々はそれを嘲笑った。 少女はそれを受け入れた。自分がいやだと思う分には構わない。自分の抵抗によっていとも簡単に人々が死んでしまうことを先の戦争で知っていたから。多くのものが一人の死で悲しむことを知っていたから。 ただ、逃げることしかできなかった。 しかし過激化していくそれに一人の少女ができることなど無く。冷めぬ熱は少女を肉体的に、精神的に追い詰めていったのだ。 仲間などいない。助けてくれる者などいない。 死にたくない。殺されたくない。 ただ、それだけを思って。 「古き戦争の道具・・・・・・か。イヤなことを思い出したわね」 私は箒から降りて、その森の木々のなぎ倒された一角に落ちた暗命石を拾った。黒光りするそれは、先ほどまであのゴーレムを動かしていたとは思えぬほどに小さく、また綺麗だった。 「ちょっとセーラっ!!さっきの魔法って結局なんだったのよ?」 「私も知りたいです。周囲のものを破壊せず、ゴーレムの動きだけ止めたかと思ったら突然にゴーレムが崩れ落ちるんですから。いったい、マスターはどんな魔法を使ったんですか?」 私が地に下りた後を追って、ミレイユとレーヴェが降りてくる。そこには小さな土、砂の山が出来上がっていた。ゴーレムの崩れ去った後の残骸だ。 蒼の光を帯びた私の魔法は、その周囲を一切破壊することなく、ゴーレムを照射し、その土塊の体を崩壊させたのだ。 「ま、簡単に言えば魔法吸収の魔法ね。本来は解呪・・・・・・呪いを解いたりするのに使うんだけど。それの最高ランク」 簡単に言えばほんの数言だが、実際には魔法として行うプロセスが多く複雑なだけに、難しい魔法ではある。 「ん〜、つまり魔法にだけ影響を及ぼす魔法だったってこと?」 「まぁそういうことね」 魔法に詳しくないレーヴェにはまぁその程度の理解が限界だろう。 実際には暗命石に込められていた魔法を吸い出すことと同時に、吸い出した魔法を魔法の中に記録し、さらにはその魔法の保存場所として、中身の何も無くなった暗命石に刻印している。暗命石の特性があってこその魔法ではあるが・・・・・・ いったいどのような思いで術者はこの魔法を石に込めたのか、私はそれも知りたかった。 「それにしたって、最初あれだけ苦戦したのを、まぁあっさりと……」 「それはレーヴェが覚醒しなかったからでしょう?」 「あれは痛いんだっての……今だってあたしの腕は痺れてるしさぁ〜」 そういってレーヴェはぷらぷらと左手を振って見せた。私はふぅ、とため息を一つ付くと、パチンとレーヴェの左腕を叩いた。 ひゃぁ、と驚いたようにレーヴェは飛び退く。 「い、いきなり何すんのよ〜」 半分涙目だ。どれだけバンパイアだのと言っていても中身は見た目通り子供だ。 「でも、痺れはとれたでしょう?その腕」 私はレーヴェが抑えたその左腕を指差した。 「え……あれ?」 また驚いたようにレーヴェは左腕をぷらぷらさせたり、振り回したりした。簡易の回復魔法だが、多少の効き目はあったようだ。 「私はね、やっぱり一冊完結の物語の方が好きなのよ」 先のレーヴェの問いの答えを小さく呟いて、私はレーヴェに薄く笑いかけた。いや、それは答えになっていないけれど、私はそれが一番ぴったりだと思ったのだ。先に長々と続く物語より、一話完結のほうが良い。 「でも、森は少し欠けちゃいましたね・・・・・・」 ミレイユが周りを見回して言った。ゴーレムが暴れたせいもあって、元あった木々が根元から折られているのも少なくない。はじめに根元から抜き去られ上空へと放られた木々もまた地面に落ち、他の木々を巻き添えに倒れている。上空から見ればこの一帯だけ、穴の開いたように見えることだろう。 「大丈夫よ、ミレイユ。植物は強いわ。倒れて、それで死んでしまうことは無い。綺麗な森は、また再生するわ」 そう、人のように弱くは無い。確かな根を張って、何度でも蘇るから。 風のいたずらか、まるで私の言葉に答えるかのように周りの木々の葉がこすれて鳴った。 今回は実際、これだけの被害を出したが、逆にこれだけの被害で収まったのはひとえにミレイユとレーヴェのおかげだ。そう、あのころとは違う。 仲間が、いるから。 私は手の中で転がるその黒い宝石を上に翳す。透明度が高いにもかかわらず殆ど日の光を通さないそれは、しかし不思議と輝いて見えた。 「これも、またじっくり家に帰ってから研究しましょうか・・・・・・」 また当分の間は時間を潰せそうだ。 「ゆっくりとコーヒーを飲みたくて遊びに行ったのに、なんか結局疲れたよ〜」 レーヴェがあーあ、と愚痴をこぼす。 「あはは・・・・・・まぁ戻ったらまた入れますから」 そういってミレイユが笑って答えた。 「レーヴェの場合、忍び込んできてるんだからそんなもてなしの必要は無いわよ?ミレイユ」 「むぅ、セーラのけち〜」 「またその口はいっぱいに引っ張って欲しいのかしら?」 私が右手を上に上げると、途端にレーヴェは逃げ腰になった。 「い、いやいやいや、なんでもないです・・・・・・」 「まぁまぁ、マスターもせっかくの研究材料を手に入れられたんですし、少しぐらい良いじゃないですか?」 間に入るようにミレイユが、しかし楽しそうに笑いながら言う。 私も冗談よ、と答えて右手を下ろした。 「今回はレーヴェも頑張ってくれたわ。一杯ぐらいは、ね」 ひょい、と箒に跨る。石をそのローブのポケットに入れて、落とさないようにボタンを留めた。ふわりと、空へ浮かび上がれば、ミレイユもレーヴェも、風を受け止めながら私に続いた。 「帰りましょうか、我が家へ」 私は後ろを振り返って、そう二人に言った。 多分、久しぶりであったけれど笑えていた、と思う。 『夢幻世界』と呼ばれる、様々な世界の中心にある世界。 他の様々な世界で忘れられたモノが最後にたどり着く世界。 そんな世界の、忘れ去られたモノがたどり着くその出口の、少し離れたところに綺麗なお屋敷が建っている。 そこには全ての世界の魔法と書物が集まり、また異世界の魔女が住んでいるそうだ。 「結局、魔法を解析はしてみたけど・・・・・・大したことはわからなかったわね・・・・・・」 そんなお屋敷の暗き地下にある無限回廊、そこに並ぶ書物の山の最奥でセーラは小さくため息を付く。 手に握られているのは先日手に入れた黒の宝石。机の上にも一つ。片やゴーレムの核として使われていたもの。もう片方はレーヴェがあらかじめ拾っていた、何の魔法も記録されていなかったものだ。 残念ながら、あの後に調べてみたが、どうやらこの世界へ運ばれてきた石はこの二つだけのようだった。また時間がたてば新たな石が見つかるかもしれないが・・・・・・ 「マスター、あまり根をつめるとお体に触りますよ?」 お盆にセーラお気に入りのコーヒーの注がれたマグカップを乗せ、ミレイユがセーラの傍らに降りた。中央を滑空して降りてきたようだ。 「ん、ありがとう」 セーラはミレイユのそのコーヒーを受け取り、一口、口をつける。 「それにしても、改めて見るとこの大きさのものがあのゴーレムを動かしていたなんて、想像できませんね」 ミレイユがそのランプの薄明かりに照らされた石を見て言った。 「まぁ確かにね。だからこそ研究のしがいもあるのだけれど」 セーラは飲み終えたコーヒーをミレイユの持つお盆の上に帰し、その石を光に当てながら、再び机の上に書きかけの書物を開いた。 彼女お気に入りの羽ペンをインクに浸し、またその書物の上に走らせる。 「そういえば、今日もレーヴェさんがいらっしゃってましたよ?マスターがいないと暇だー、ですって」 「勝手に忍び込んでくる癖に、言うことも勝手ね、レーヴェは」 話をしながらもセーラの手は止まらずに文字を書き続ける。 「ふふふ、でもマスター、やはりたまには上に上がってきてくださいね?」 「ん、努力はするわ」 セーラの答えに、しかし満足したのかミレイユははい、と小さく頷いて、その白い羽を羽ばたかせて上へと昇っていった。 人の手によって紡がれる本。魔導書。 それは人の手によって造られた魔法を記す本。 人の手によって一つ一つ作られた魔法、魔導書であれ、それには創作者の意図、想いが込められているものだ。 だからセーラはこの場所が、そして魔法を研究することを好きだ、と感じる。 沢山の人の想いがそこにあるから。それをモノを通じて読むことができる場所。無限回廊の図書館。 「ま、たまには上にも戻ろうかしらね」 先ほどのミレイユの言葉を思い出しつつ、セーラは薄く笑った。 でも、今は。 彼女はその石を、人の想いを、光に翳しながら言う。 「その魔法は、いったいどんなものを私に見せてくれるのかしら、ね?」 〜 to be continued ? 〜 |